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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)130号 判決

控訴人 那珂川漁業協同組合連合会

右代表者理事 高野克規

右訴訟代理人弁護士 石坂次男

被控訴人  月観光株式会社

右代表者代表取締役 高瀬孝三

右訴訟代理人弁護士 永野謙丸

同 真山泰

同 小谷恒雄

同 竹田真一郎

同 藤巻克平

同 保田雄太郎

主文

本件控訴及び当審で拡張した請求をいずれも棄却する。

控訴審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し三〇〇〇万円及び内金二〇〇〇万円に対する昭和四八年一一月一日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え(内一〇〇〇万円について当審で請求を拡張した。)。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

旨の判決

この判決は第二項の一〇〇〇万円を除く部分に限り仮に執行することができる旨の宣言

二  被控訴人

本件控訴及び当審においてした請求拡張部分の請求をいずれも棄却する。

控訴審における費用は控訴人の負担とする。

旨の判決

第二主張

一  当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。但し、原判決二枚目裏三行目「へ大量に押し出し」から同七行目「に亘り」までを「本流の西側の堤防とその地続きである川原との間に存する入江(以下「本件入江」という。)に大量に押し出し、同入江と那珂川が接する地点から入江に向けて推定約五万立法メートルに及ぶ土砂、泥土を入江の水底及び右河原に堆積させ、かつその泥土が那珂川の水流によって流下し、右那珂川との接点から下流へ約八キロメートルの地域(以下「本件水域」という。)に亘り」と改め、同四枚目末行「離れた入江」とある次に「(本件入江)」を加え、同裏四行目及び六行目に「原告」とあるのを「被告」とそれぞれ改める。

二  控訴人

1  工作物の瑕疵について

(一) 本件ゴルフ場用地は被控訴人の所有であるところ、同人は本件ゴルフ場造成工事を訴外日本機械土木株式会社に請負わせたものであるが、自らも常時右訴外会社が設計どおりに造成工事をしているかどうかを指揮監督していたものであるから、被控訴人も本件用地の直接占有者である。

(二) 本件ゴルフ場用地は道路等と同様それ自体が土地の工作物である。被控訴人は、昭和四八年六月二〇日の降雨当時、本件ゴルフ場用地の山林を伐採し、土砂を削り、盛土をするなどして土砂崩れが容易に発生する状態にあったのであるから、芝張りその他の方法により土砂崩れ防止のため必要な措置を講ずべきであったにもかかわらずこれを怠った。

2  漁獲減と控訴人の損害について

(一) 控訴人は、栃木県知事の免許を受け漁業法第六条第五項第五号に規定する第五種共同漁業権を有するものである。漁業権は同法第二三条第一項により物権とみなされ、漁業権を不法に侵害する者は漁業権者に対し不法行為に基づく損害賠償義務を負わなければならない。

(二) 控訴人が漁業権を有する本件入江及び本件水域における漁獲減は、即漁業権者たる控訴人の損害となるものである。

3  本件入江の破壊、喪失による損害について(当審における請求の拡張)

本件入江は、漁獲の場として、漁族の生育保護の場として又川舟の舟溜りとして控訴人にとって最良の漁場であったところ、被控訴人所有地の土砂が流下した堆積土により右入江は全く破壊されてしまった。控訴人が右破壊された漁場を原状回復するには少くとも一〇〇〇万円の工事費が必要であるから、被控訴人は右金員を賠償する義務がある。

二  被控訴人

1  控訴人の主張1(一)のうち、被控訴人が本件ゴルフ場用地の所有者であり、同土地のゴルフ場造成工事を訴外会社に注文したことは認めるが、その余は否認する。

2  同2(一)のうち、控訴人がその主張のような漁業権を有することは不知。

3  同3のうち、本件入江の水底に堆積された土砂の一部が被控訴人所有地の土砂であることは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本件請求は、民法第七一七条第一項に基づく請求であるところ、控訴人は、大雨により崩壊した本件ゴルフ場の山腹自体が土地の工作物であり、被控訴人はその所有者でありかつ占有者であると主張するが、さらに控訴人の主張によれば、右大雨の当時訴外日本機械土木株式会社が被控訴人から本件ゴルフ場造成工事を請負って、工事続行中であったというのであるから、造成工事中の山腹それ自体が同条にいう工作物にあたるか否かはさておき、これを事実上支配しその瑕疵を修補しえて損害の発生を防止すべき立場にあった者、すなわち同条にいう占有者は訴外会社であって、被控訴人ではないというべきである。控訴人は被控訴人も常時右訴外会社が設計どおりに造成をしているかどうかを指揮監督していたものであるから本件ゴルフ場の占有者であったというが、他に特段の事情があれば格別、右の事実関係だけから被控訴人が工事中のゴルフ場の占有者であったとするには足りないから、本件ゴルフ場の所有者にすぎない被控訴人に対する本件請求は、占有者である訴外会社が損害の発生を防止するにつき必要な注意をなしたものである旨の主張立証を伴わない点で、すでに失当というほかはない。

二  また控訴人は本件入江及び本件水域の漁獲減が即控訴人の損害であると主張するので検討する。

1  控訴人が水産業協同組合法によって設立された法人であることは当事者間に争いがなく、同法によれば、漁業協同組合連合会は、その行う事業によってその組合員又は会員のため直接の奉仕をすることを目的とし(同法第四条)、その事業範囲は組合員の福利厚生、漁業に関する施設の事業等を行うものと定められている(同法第八七条)ところ、《証拠省略》によれば、控訴人は栃木県那須郡全域並びに塩谷郡、芳賀郡の各一部地域について漁業法第六条第五項第五号にいう第五種共同漁業権を有していることが認められる。

2  右1説示の事実に《証拠省略》を総合すると、控訴人は本件入江及び本件水域について有する共同漁業権の行使としては、控訴人に加入する組合員からは賦課金を、その他の者からは入漁料を徴収してこれを納付した者に右共同漁業権を有する地域での漁業を営むことを許可するにすぎないのであって、組合員もしくは入漁者が収漁した漁獲物はこれを漁獲した者が取得し、これについて控訴人が容喙する権限をもたないことが認められ、これに反する証拠はない。

以上認定の事実によれば、本件水域における鮎漁獲量の減少がそのまま控訴人の損害といいえないことが明らかであるから、控訴人が本訴において漁獲量の減少を根拠にしてする損害賠償請求はその余の点を判断するまでもなく主張自体失当であるといわなければならない。

三  次に、控訴人は、当審において、漁獲、漁族の生育保護の場であり、かつ溜舟りに利用された本件入江が、堆積された土砂によって破壊され、これを原状に回復するには少くとも一〇〇〇万円の工事費が必要であるとして請求の拡張をしているが、控訴人が右入江において原状回復をなす権原を有するか否か及び右入江が大雨の前後でどのように形が変ったかの点についての具体的な主張立証がなく、かつ、今後なされる見込もないから、その余の点について判断するまでもなく該請求は失当である。

四  以上いずれの点からしても控訴人の本訴請求はすべて失当であるところ、従前の請求を棄却した原判決は結局相当であるから本件控訴を棄却し、当審における拡張請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)

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